2025/09/19 15:17

 私のエスプレッソ・ライフは直火式のマキネッタから始まりました。地方公務員の折は、朝は出勤準備で忙しいため、定番の「細挽き」のコーヒーパウダーを使って飲んでいました。そして、退職後のある日、時間もできて来たため、理想の「おいしいクレマ」を求めて、実験的に「極細挽き」のパウダーを入れて点火してみました。

しかしながら、途中で安全弁が作動し、けたたましい警告音が鳴り始めたため、消火して抽出を諦めました。

普通のマキネッタは23気圧用であるため、「極細挽き」のパウダーが入っているバスケットの中を熱湯が通過できなかったためです。パウダーの粒度と分量次第では、「極細挽き」も使えないわけではないと思いますが、限界があるようです。
 そのため、次に、当時、流行し始めていたカプセル方式のエスプレッソマシンに飛びつきました。ただし、ちゃんとクレマは出るのですが、1個当たりのカプセルの値段が結構しますし、電子制御のせいなのか、カプセルを入れてスイッチを押すだけのワンパターンの生活に飽きてきたせいなのか、次第に自販機に100円入れて、毎日、缶コーヒーを購入し続けているような気持になって来てしまいました。

そこで金属製のカプセルにコーヒーパウダーを詰めて使える製品をオーストリアから個人輸入して使ってみましたが、うまくいきませんでした。
 そんな折に、エスプレッソ抽出における理想的な圧力単位とされる9気圧の蒸気圧がかかる、このイタリア製の直火式のマシンに出会ったわけです。

 購入後、8年半、経過していますが、電子制御ではないこのマシンには、オーナーが五感や腕・わざを磨いて、まろやかできめの細かいクレマの抽出を目指してあれこれと試行錯誤できるところに、その面白さがあるように思います。元々、道具への思い入れが強く、気に入ったものは長く使う私にはぴったりなのかもしれません。

 さて、道具で思い出しましたが、私の住む鈴鹿市に隣接する四日市市には有名な万古焼があり、土鍋が作られているのですが、この直火式の土鍋でご飯を炊くと本当においしく炊けるのです。
 一方、家電メーカーが技術の粋を結集し、設計した電子炊飯器は確かにどれも最初は「こんなに美味しくご飯が炊けるなんて」と感動してしまうものなのですが、いつかその味に慣れ、やがてとりたててご飯をおいしく感じることはなくなっていくものなのではないでしょうか。
 直火式のマシンと電子制御のデジタルマシンの関係も、ちょうど同じようなところがあるような気がします。毎日、使う道具というものは、ひとが関われる部分が多ければ多いほど、面白さや楽しさもいっぱいあるのかもしれません。