2025/09/18 10:38
直火式とは、直接、火にかけ、水を沸騰させて、その蒸気圧によってエスプレッソを抽出する方式です。
直火式の場合、ガスコンロ、カセットコンロ、IH(※IHヒーティングプレートが別途、必要。)が使用可能です。火力は中火を使用します。
通常のマキネッタの場合は「細挽き」のコーヒーパウダーを使用し、2~3気圧の蒸気圧で抽出することになります。
一方、Bacchi Espressoは「極細挽き」のコーヒーパウダーを使用し、業務用のエスプレッソマシンと同様、9気圧の蒸気圧で抽出することになります。
現在、家庭用のエスプレッソマシンは、大きくデジタルマシンと直火式マシンの2系統があるように思います。
デジタルマシンは、センサーや電子機器を組み込み、電子制御によって動くマシンです。
直火式のマシン Bacchi Espressoは、イタリア人デザイナーのアンドレア・バッキ氏の手により設計されたもので、シリンダーとピストンが組み込まれた、油圧式の「圧力増幅装置」によって動くマシンです。
このマシンも9気圧の蒸気圧、90℃での抽出という本格的なエスプレッソの条件を満たしているのです。
要するにデジタルマシンは、電子回路やコンピュータ等の「ハイテク技術」を駆使した電子制御システムによって、一方、Bacchi Espressoは、ひとが必要な操作を加える機械制御システムによって抽出することになります。
直火式はアナログであるがゆえに、ひとが五感、腕・わざを磨き、マシンに関わることによって、「計算され尽くして設計された電子制御システム」との差を埋め、縮めていくことになります。
話をわかりやすくするため、自動車の話に置き換えてみましょう。
現在、ほとんどの自動車がAT車となり、Dレンジに入れっぱなしにして楽で快適に走行できる乗り物となりました。
しかしながら、ひとがクラッチを踏み、シフトレバーを操作することによってスピードに応じたギアチェンジを行っていく作業がなくなってしまい、アクセルとブレーキの絶え間ない繰り返しだけで走行できるようになってしまいました。
その結果、アクセル、ブレーキ、クラッチの操作テクニックを磨き、エンジンブレーキを駆使しながら意のままに車をコントロールするという楽しみがなくなってしまったような気がしてなりません。
そういう意味で、デジタルマシンは、いわば「AT車」、直火式のBacchi
Espressoは「ミッション車」と言ってもいいのかもしれません。
例えば、Bacchi Espressoでカセットコンロを使用する場合、ボンベの中の燃料は使用の都度、減っていき、火力も少しずつ弱くなっていくように思います。そのため、約6分~7分の間で抽出の合図となるホイッスルを鳴らし、9気圧で抽出をスタートさせるためには、ボンベの燃料の残量に応じてカセットコンロのノブの開閉具合を微調整し、火力をコントロールしていくことが必要となります。
これは、コンセントにプラグをさしてスイッチを入れれば、電流が流れ、自動的に水を沸騰させるデジタルマシンでは味わうことができない作業といえます。
直火式とは、文字通り、火力調整も自分で行うということなのです。
このように技術の進歩によって何もかもが自動化されて快適で便利になった結果、失われてしまったもの・・・「ひとがコントロールする喜び」、「ひとが手探りや試行錯誤しながら「最適解」を探す楽しみ」といったもの・・・がこの直火式のマシンにはたくさん残されていると思います。
それが直火式マシンの面白さであり、醍醐味だと思います。
このマシンはいつも黙って私に語り掛けてきます。
「さあ、9気圧の蒸気圧は用意した。あとはあなたの腕次第だ・・・。」